子どもが
"急に変わってしまった"
と感じたら
PANS/PANDASは、感染症をきっかけに、子どもの心と行動が突然変わってしまう病気です。
このサイトは、不安の中で悩む子どもたちと、そのそばで支えるご家族のための、PANS/PANDAS情報サイトです。
PANS/PANDASとは?
PANS(小児急性発症神経精神症候群)とPANDAS(小児自己免疫性神経精神障害)は、感染症をきっかけに子どもの行動や感情が急激に変化する症状です。
突然の発症
ある日突然、子どもの行動や感情が大きく変わります。数日から数週間で症状が現れることが特徴です。
感染がきっかけ
溶連菌感染症やインフルエンザなどの感染症の後に、免疫システムが脳に影響を与えることで症状が現れます。
脳への影響
免疫反応が脳の一部(大脳基底核)に影響し、強迫症状、不安、チック、行動の変化などが起こります。
適切な治療で改善
早期発見と適切な治療により、多くの子どもたちが回復します。理解とサポートが大切です。
こんな変化に気づいたら
- 突然の強迫行動(手洗い、確認行為など)
- 極度の不安や分離不安
- チック症状の出現や悪化
- 食事の拒否や制限
- 睡眠障害
- 学習能力の急激な低下
- 感情のコントロールが難しくなる
- 身体的な訴え(頭痛、腹痛など)

症状の"なぜ?"を解説
なぜ感染症の後に行動や感情の変化が起こるのでしょうか?そのメカニズムをやさしく説明します。
感染症にかかる
溶連菌、インフルエンザ、マイコプラズマなどの感染症にかかります。
免疫システムが反応
体を守るために免疫システムが働き、抗体を作ります。
誤った攻撃
一部の抗体が、誤って脳の細胞を攻撃してしまうことがあります。
脳に炎症が起こる
脳の大脳基底核という部分に炎症が起こり、様々な症状が現れます。

大脳基底核への影響
脳の中にある大脳基底核という部分は、運動のコントロール、感情の調整、行動の抑制などに関わる重要な場所です。
運動機能
チック症状や不随意運動が現れることがあります
感情のコントロール
不安、イライラ、気分の変動が起こりやすくなります
行動の抑制
強迫行為や衝動的な行動が見られることがあります
PANS/PANDASのメカニズム:免疫の誤作動が引き起こす脳の炎症
免疫システムと脳のつながりを、もう少し詳しく見ていきましょう。
1. 感染症:トリガーとなる病原体
PANS/PANDASは、急性の感染またはその他の炎症性刺激によって症状が急激に発症することが特徴です。
PANDAS(特定のサブタイプ)
原因菌: A群溶連菌 (GAS) 感染(溶連菌性咽頭炎など)に特に関連付けられています。
PANS(より広範な診断)
原因: 溶連菌に限定されず、インフルエンザ、マイコプラズマ、ライム病、ウイルス性感染症(水痘など)など、幅広い感染がトリガーとなり得ます。
重要性: 感染自体が直接脳を攻撃するのではなく、それに続く「免疫反応」が核心的な役割を果たします。
2. 免疫反応:分子擬態と自己抗体の産生
体を守るために作られた抗体が、誤って自己の組織を攻撃してしまう現象が起こります。
抗体の誤認(分子擬態)
溶連菌などの病原体表面のタンパク質が、脳の神経細胞のタンパク質と非常に似た構造を持っているため(これを分子擬態と呼びます)、感染を攻撃するために作られた抗体(自己抗体)が、誤って脳の組織を敵と見なして攻撃します。
血液脳関門の機能不全
感染によって引き起こされる強い炎症反応(サイトカインの放出など)により、通常は異物から脳を守っている血液脳関門(BBB)の機能が一時的に低下します。これにより、自己抗体が脳内へ侵入しやすくなります。
3. 脳への影響:大脳基底核の炎症
脳内に侵入した自己抗体が特定の神経細胞を攻撃し、急激な神経精神症状として現れます。
標的部位: 大脳基底核
抗体が主に標的とするのは、運動、思考、感情のコントロールに関わる大脳基底核(特に尾状核や被殻)です。自己抗体がこの部位の神経細胞や受容体に結合することで、神経伝達物質のバランスが崩れ、機能障害を引き起こします。
神経炎症と症状
この攻撃によって大脳基底核に炎症(神経炎症)が起こり、その結果、急激な発症を特徴とする強迫性障害(OCD)、チック症、重度の分離不安、感情の不安定さ、筆記能力の低下などの症状が引き起こされます。

重要なポイント
PANS/PANDASは、子どもの意志や性格の問題ではありません。免疫システムの反応によって起こる医学的な状態です。適切な理解とサポートが、回復への第一歩となります。
早期発見が大切
症状に気づいたら、早めに専門医に相談しましょう。
理解とサポート
家族や周囲の理解が、子どもの回復を支えます。
PANS/PANDASの診断基準
PANS(小児急性発症神経精神症候群)とPANDAS(小児自己免疫性神経精神障害)は、感染症などをきっかけに急に心の病気や行動の変化が現れる病気です。
PANS(小児急性発症神経精神症候群)の診断基準
PANSと診断されるには、突然の核心的な症状が急に現れます
突然の核心的な症状(下記のどちらか一方もしくは両方)
強迫性障害(OCD)の突然の発症
例:急に手を洗いすぎる、鍵をかけすぎるといった行動が始まる
重度の食事制限
例:食べ物をひどく嫌がったり、怖がったりして、食事が極端にできなくなる
下記の7つの症状のうち2つ以上が急に現れたり、悪化したりします
不安:急に強い不安を感じるようになる。
感情の不安定さ(激しい気分の変化)や抑うつ(落ち込み):急に笑ったり泣いたり、怒ったり、気分が大きく変動する、またはひどく落ち込む。
イライラ、攻撃性、反抗的な行動:怒りっぽくなる、暴力的になる、反抗的な態度をとる。
行動の退行(赤ちゃん返り):年齢に見合わない幼い行動(指しゃぶり、赤ちゃん言葉など)に戻る。
学業成績の急な悪化:それまでできていた勉強ができなくなる。
運動・感覚の異常(チックや不随意運動など):まばたきや首振りなどのチック、または自分の意思とは関係なく体が動いてしまう。
体の症状(睡眠障害や夜尿症など):急に眠れなくなる、おねしょが始まる(これまではできていたのに)、頻繁にお腹や頭が痛くなるなど。
PANDAS(小児自己免疫性神経精神障害)の診断基準
PANDASは、PANSのサブタイプです。A群溶血性レンサ球菌(溶連菌)の感染が原因となって発症したケースを指します
PANDASと診断されるには、以下の5つの条件すべてを満たす必要があります。
強迫性障害(OCD)または激しいチックの突然の発症
急に強迫症状や、日常生活に支障が出るほどの激しいチックが始まる
症状が良くなったり悪くなったりを繰り返す
症状の重さが、良くなる時期と悪くなる時期を繰り返す(エピソード的な経過)
思春期前の発症
症状が始まったのが、思春期を迎える前である
神経学的・精神神経学的な異常がある
動作や感覚、思考などに異常が認められる
症状発症の直前に溶連菌感染があった
症状が出る少し前に、溶連菌に感染していたことが確認できる
溶連菌感染について
溶連菌は複雑で、多くの感染が見逃されています
溶連菌の複雑さ
- 幼児の溶連菌感染の65%以上は症状がないが、免疫学的には重要
- 喉だけでなく、副鼻腔、耳、腸、皮膚、膣、肛門周囲にも発生する可能性
- 迅速検査は15〜20%の偽陰性の可能性があるため、培養検査も重要
家族全員の検査が重要
家族全員を検査することが重要です。無症状の保菌者がいる可能性があり、お子さまの再感染のリスクを下げるために、保菌者には1〜2回の抗生物質投与が必要です。
抗体価について
正常な抗体価でも溶連菌が存在しないとは限りません:
- •溶連菌感染児の54%のみがASOの有意な上昇を示す
- •45%のみが抗DNase Bの上昇を示す
- •63%のみがASOまたは抗DNase Bのいずれかの上昇を示す
溶連菌以外のトリガー
感染性トリガー
- マイコプラズマ肺炎歩行性肺炎としても知られる
- ブドウ球菌感染皮膚、鼻、扁桃組織など
- ライム病共感染症を含む
- インフルエンザ
- コクサッキーウイルス
- エプスタイン・バーウイルス
- 単純ヘルペスウイルス
その他の可能性のあるトリガー
- 病気への曝露感染症への接触だけで症状が誘発されることがある
- アレルギー季節性アレルギーを含む
- ストレス精神的・身体的ストレス
- 食事グルテン、乳製品などの除去が有効な場合も
- 酵母の過剰増殖抗生物質使用後に発生する可能性
PANS/PANDAS 専門家チームによるガイドライン
医療従事者と保護者のための重要なガイドライン
パートI:精神医学的・行動的介入
Clinical Management of Pediatric Acute-Onset Neuropsychiatric Syndrome: Part I—Psychiatric and Behavioral Interventions
心理療法(認知行動療法など)、精神科薬物療法、学校での配慮などについて
パートII:免疫調節療法の使用
Clinical Management of Pediatric Acute-Onset Neuropsychiatric Syndrome: Part II—Use of Immunomodulatory Therapies
ステロイド、IVIG(免疫グロブリン大量静注療法)など、症状が重度、または症状の原因に神経炎症や自己免疫の関与が強く疑われる特定の患者さんに対する治療について
パート III:感染症の治療と予防
Clinical Management of Pediatric Acute-Onset Neuropsychiatric Syndrome: Part III—Treatment and Prevention of Infections
抗生物質の使用、感染症の検査と治療、予防的な抗菌薬の使用などについて
2020年に米国神経学会誌に掲載された小児自己免疫性脳炎の診断アプローチ
Clinical approach to the diagnosis of autoimmune encephalitis in the pediatric patient
小児における自己免疫性脳炎の診断への臨床アプローチ(PANSを含む)
重要な注意事項
早期診断と治療が重要:PANS/PANDASは早期に適切に治療すれば、早期の改善の可能性があります。症状の持続期間と強度を減らすために、早期治療が重要です。
専門医への相談:お子さまに気になる症状がある場合は、小児科医、小児神経科医、または精神科医にご相談ください。PANS/PANDASに詳しい専門医を見つけることが理想的です。
包括的なアプローチ:診断には、身体的症状と精神的症状の両方に対処する包括的なアプローチが必要です。
症状のチェックリスト
お子さまに当てはまる症状をチェックしてみましょう。複数の症状が急に現れた場合は、専門医への相談をおすすめします。
強迫症状
不安・感情
行動の変化
身体症状
認知・学習
専門医への相談をおすすめする場合
- 複数の症状が突然(数日から数週間で)現れた
- 感染症の後に症状が始まった
- 日常生活に大きな支障が出ている
- 症状が2週間以上続いている
- 症状が悪化している
※ このチェックリストは診断ツールではありません。気になる症状がある場合は、小児科医、小児神経科医、または精神科医にご相談ください。
PANS/PANDASの絵本
子どもたちにもわかりやすく、PANS/PANDASについて学べる絵本をご紹介します。

リリとチワロボの
ふしぎなバグ
主人公のリリと、心優しいロボットチワロボが、体の中で起こる不思議な「バグ」について学んでいく物語です。
子どもにもわかりやすい
PANS/PANDASの症状を、やさしい言葉とイラストで説明します。
家族で読める
お子さまと一緒に読むことで、理解を深めることができます。
希望のメッセージ
適切なサポートで良くなることを、前向きに伝えます。
※ 本書は医療情報の提供や治療を目的としたものではありません。
診断や治療については必ず医師にご相談ください。
物語のあらすじ
ある日、元気いっぱいだったリリの心と体に、突然ふしぎな変化が起こりました。 それは「風邪」がきっかけでした。 こわくて、不安になって、まるで自分じゃないみたいな気持ち。 「どうして、こんなふうになっちゃったの……?」 それは免疫の誤作動によって起こる PANS/PANDAS という病気。リリは治療によって一歩ずつ、自分らしさを取り戻していきます。「見えない不安」とたたかった、 小さな女の子の、勇気と希望のものがたりです。
保護者の方へ
お子さまと一緒に読むことで、症状への理解を深め、安心感を与えることができます。
教育者の方へ
クラスでの理解を促進し、PANS/PANDASの子どもたちをサポートする手助けになります。
きょうだいの方へ
きょうだいが病気を理解し、家族みんなで支え合う気持ちを育てます。
PANS/PANDAS 解説動画
PANS/PANDASについて学べる動画をご紹介します。医療従事者向けから保護者向けまで、様々な視点からの解説動画を集めました。
PANDAS/PANSの子どもの脳では何が起きているのか?
このアニメーション動画では、PANDAS/PANSの子どもたちの脳で起きている炎症や免疫反応について、最新の研究結果をもとにわかりやすく解説しています。画像検査や検査マーカーが、診断や治療方針の決定にどう役立つかが視覚的に理解できます。
ASPIREによるPANS/PANDAS入門解説
米国のPANS/PANDAS支援団体 ASPIRE が制作した、PANS/PANDASの入門動画です。急性発症する強迫症状・チック・食事制限などの症状や、「免疫が誤作動して脳を攻撃してしまう」というメカニズムについて、アニメーションを用いて一般の方向けに解説しています。
子どもの"なぞの変化"―PANDAS/PANSという可能性
公共放送局 WQED が制作したミニ・ドキュメンタリーです。溶連菌感染をきっかけに、突然、強迫症状や感情の爆発、性格の変化のように見える症状が出た子どもたちと家族の姿を追いながら、PANDAS/PANSとは何かを社会に問いかける内容になっています。
子どもの「急な性格の変化」の裏にあるかもしれない病気 PANDAS
ニュース形式で、細菌感染後に突然、行動や感情が大きく変わってしまう子どもたちを取り上げた動画です。PANDASの仮説、医学的な議論点、家族が直面する現実がコンパクトにまとめられています。
PANDAS提唱者スウェド医師が語る ― 診断・治療・学会の議論
PANDASを最初に提唱した小児科医 Susan Swedo 医師へのインタビュー動画です。PANDAS/PANSの診断基準、治療アプローチ、そして学会・ガイドライン上の議論やコンテキストについて、本人の視点から解説されます。
溶連菌感染後に子どもが変わった?それはPANDASかもしれません
「溶連菌のあと、子どもの様子が急におかしくなった」と感じる保護者に向けて作られた短い啓発動画です。ほとんどの子どもはPANDASにならない一方で、一部の子では免疫の誤作動が起きること、気になる場合は小児科に相談する重要性を伝えています。
医療従事者のための論文サイト
PANS/PANDASに関する最新の研究論文や臨床ガイドラインをまとめています。
PANS/PANDASの診断基準
最新の診断基準と臨床ガイドラインについての論文集
免疫学的メカニズム
自己免疫反応と神経精神症状の関連性に関する研究
治療アプローチ
抗生物質療法、免疫療法、心理療法などの治療法
臨床症例研究
実際の症例報告と長期予後に関する研究データ
国際的な研究ネットワーク
PANS/PANDASの研究は世界中で進められています。最新の研究成果や臨床ガイドラインを共有し、より良い診断と治療法の確立を目指しています。
医療機関を探す際のポイント
- PANS/PANDASの知識がある医師を探す
- 小児神経科、小児精神科、免疫科などの専門医
- 初診時に症状の経過を詳しく説明できるよう準備する
- セカンドオピニオンも検討する